ペルシャ絨毯に関して偽物が多く出回っているという話があるらしく、ネットなどでは、偽物と本物の見分け方という質問やそれに答えるような記事も多いようです。
なので、ペルシャ絨毯の偽物と本物という話をしてみたいと思います。
とはいえ、具他的な偽物と本物の見分け方といった話については他のサイトをご参考ください。
私が話したいのはこの話の根底にあるペルシャ絨毯の価値についてです。
ペルシャ絨毯は高級品ですが、美術館とかに飾られるものをのぞいて、あくまで敷物です。
したがって、ペルシャ絨毯の価値は、現実的に存在します。
「ペルシャ絨毯である」ということで、値が付くわけではありません。
インテリアの一部として、丈夫でデザインの綺麗な絨毯がほしい人の需要を現実に満たすことが値段の源泉であり、その需要故に高価になっています。
つまり、この絵はさっぱり理解できないがピカソが書いたんだから価値が高いんだろうといったような感覚でペルシャ絨毯を買うと必ず後悔します。
この絨毯を居間なり書斎なりに敷いて、そのためにはこの値段なら出してもいいと自分が思える場合にのみ買うことをお勧めします。
自分の買った絨毯が偽物かどうかを心配している人の多くは、買った絨毯に値段分の価値を見いだしていなくて、ペルシャ絨毯であるという理由で高いお金を払った人です。
それだと、買ったときは高価な買い物特有の興奮状態であったとしても、落ち着くと、そもそも価値に納得してないわけですから、ずっと悩むことになります。
あれこれ見て、やっぱりこの絨毯よりいい絨毯は同じ価格帯ではないなとか、自分の目指すインテリに必要なこの絨毯ならいくらまで出してもいいなと、自分なりに納得した場合のみ買うことにしないと、ほかの絨毯を見るたびに、なぜあれがこの値段でうちのはこの値段なのだといった、不毛な疑問を持つことになります。
最近問題なっているのが、東アジア製の絨毯。
それらが、品質もデタラメなものをペルシャ絨毯と称して売っているのであれば分かりやすくて問題にはなりません。
問題なのは、イランの工房が、中国や東南アジアなどに工房を作り、そこで実際にイラン人が出向して監修しながら織られ、しかも半製品でイランに出荷され、イランで最終仕上げされた絨毯。
ご存じのように、ペルシャ絨毯を織るには技術が必要とは言え、ベトナム人なんて、日本人より器用で勤勉なことで有名なくらいです。
その結果、最近ではかなりの品質の絨毯が東アジア経由で作られています。
プロでも現物を見てどこで作られたかわからないものも出てきました。
自分はプロだから物を見れば中国製かイラン製か区別できるという人がいたら、そっちの方が最近は怪しいかもしれません。
とはいえ、製造工程を隠すような悪質なケースはほとんどなく、普通はちゃんと中国製ですと開示されています(一部の人が想像しているような詐欺師だらけの原始的な世界ではなく、洗練されたビジネスの世界です)。
さて、それらは偽物なのか。
まず、ペルシャ絨毯を、イラン国内で製造された絨毯と定義すれば、ペルシャ絨毯ではないということになります。
しかし、イラン国内と同じような伝統的な手法で作られた絨毯が、ただ単に作られた場所がイランではないというだけで、「偽物」になるのかは微妙なところです。
したがって、そういう絨毯を売っている業者があったとしても、その事実を開示していないのは論外ですが、開示した上で扱っていれば、「偽物」を扱っているとはなりません。
ここで、大事なことは、ペルシャ絨毯の価値はあくまで、絨毯そのものの品質が決めるということです。
ある絨毯があったとして、製造国がイランではなく中国であったことが判明したとしても、それがゆえに値段が下がるなんていうことは本質的にはありません。
もちろん、現実的には嫌がるお客様いたり、需要が減りますから、多少値は下がりますが、「ペルシャ絨毯ではないから半額」になったりとかはしません。
ペルシャ絨毯は、ペルシャ絨毯だから価値があるのではなく、品質に基づいてその価格が付いています。
そして、ペルシャ絨毯ではなくとも、トルコ産やパキスタン産で素晴らしい手織り絨毯は世界にはたくさんあり、いいものにはペルシャ絨毯と同水準の値付けがされています。
それと同じで、東アジア産の絨毯でも、良いものは良いのであって、ペルシャ絨毯とは言えないから偽物だとか価値がないなんて言っている人を見ると、逆にペルシャ絨毯の価値が分かっているのかと聞きたくなります。
ピカソの絵と同じように、ペルシャ絨毯だって、素人にはわかりにくくても、ちゃんと価値には内実があるのです。
素人でも、たくさん見て行く中で、気に入ったものが出来たり欲しい絨毯のイメージが具体的になってきたりすると、気に入ったものにはしっかり高い価格がついていたりして、その価値は実感覚としてわかってきます。
もちろん、審美感が作用しますから最終的に主観的な要素は無くなりません。
しかし、絨毯屋に通ってたくさんの絨毯を見たり店主と会話を重ねても、産地とか工房とか、そういった具体的な目の前の絨毯からは比較的遠い抽象的な要素の積み上げで価値が決まるかのように思い込んで知識を詰め込んで、机上の空論的な絨毯通になっても本質から遠いところに行くばかりです。
衣類でも宝石でも時計でもなんでもよいのですが、自分が詳しいものと同じように、やっぱりいいものにはちゃんといい値段がついてるんだなと実感することがペルシャ絨毯入門としては何より重要です。
結局、話は最初に戻るのですが、大事なことは自分で納得して買うことです。
「偽物」「本物」議論にはまっていく内に、ペルシャ絨毯の本質を見失わないようにご注意ください。
なお、「本物」にこだわる人は、証明書とか工房とかに要注意。
そういった単語が登場する方が「偽物」の可能性が高いです。